226.Tommy's絵画美術館今月(5月)紹介作品イワン・クラムスコイの「忘れえぬ人」
tommy’s 絵画美術館今月(5月)の紹介作品
イワン・クラムスコイの作品 「忘れえぬ人」
忘れえぬ人 所蔵:モスクワ国立トレチャコフ美術館/原寸:75.5×99.0cm
「忘れえぬ人」「見知らぬ人(女)」は1613年から1917年までいたロマノフ朝・
帝政ロシアの末期に描かれた絵画で、ロシアのモナリザとも言われてる肖像画の
傑作です。誰の依頼によるものでもないという奇妙な由来もさることながら、
題材も不確かな風変わりな絵。夜明けの大通りの馬車の上からこちらを見下ろす、
豪華な毛皮のコートに身を包み、高慢に見えるが、どこか憂いに満ちた風情を
漂わせる黒髪の美女…。
ロシアでは「アンナ・カレーニナ」と呼ばれるこの作品のモデルは、今もって
明らかにはされていません。モナリザの口元が見る者に物語性と神秘性を
感じさせるのと同様に、この絵は眉間でそれを表現しています。
一瞬の光景や人の表情にドラマや美を感じるのは、写真術が発達した近代的な美の
感覚で、「決定的瞬間」という言葉がこれをよく表現しています。
ときに自分のとは関わりがない人の一瞬の表情が忘れられないことがありますが、
この絵を見た印象から、「忘れえぬ人」と名付けたのだと思います。
絵の本質をついた、とてもロマンチックな名訳だと思います。
そういえば、ダ・ヴィンチのモナリザも同様にモデル、画題が不明でした。)
【クラムスコイについて】
ロシア、ヴォロネジロシア、ヴォロネジ県オストロゴジュスクに生まれる。
画家であると同時に美術評論家でもある。
「移動美術展協会」を創立し、その広い視野、全ての新しい芸術プロセスに対
する興味、ドグマ主義の否定において他と一線を画した。
皇族を含む多数の注文が切れることはなく、肖像画家として成功をおさめる。
晩年は、描かれた人の本質を鋭く突く、深い心理主義的な肖像画を描くが、
あまりにもハードな生活で健康を蝕み、49歳で短い生涯を閉じた。
他の代表作に 『V・G・ペロフ』1881、『S・S・ボトキン』1882/
などがある。