Tommyの冒険2.東京生活スタート

Tommyの冒険2.

東京生活スタート

「ごめんください。福岡のTommyです。誰かいませんか」!
ドアが開いて女性が顔を出してくれた。伯母さんらしい。 
「福岡のTommyです」というと中に案内してくれて客間でお茶を入れてくれた。 
まだ伯父さんは、帰ってきていないという。伯母さんとは、初めて会う。 
立ち居振る舞いがしゃんとして、お茶の入れ方一つとっても厳しそう。
どうも苦手なタイプのようだ。
伯母さんがこれからの東京生活について話してくれた
その内容に、私は耳を疑った。
まず、養女が一緒に住んでいるとの事。
この段階ですでに疑問がむくむくと頭をもたげる。
驚いたことに、私自身も書生としてではなく養子として迎えることに
なっているという。
しかもあろうことか、将来二人は一緒にさせられるという。
私の父と伯父の間では、すでに取り決められていると言うのだ。
「だから、あなたは福岡に帰る必要がないのよ」。
いや、そう言われても…私の人生は、私のものではないのか?
衝撃の事実を知らされ、食事など喉が通るわけがない。
私はひたすら伯父の帰りを待った。
夕刻、養女の芽衣さんが帰宅。ちらりと見れば、なんとも聡明な
雰囲気を漂わせる美女でしかもスレンダー。
長い髪がよく似合う。まさに良家のお嬢さんである。
学校は、小さい頃から東京の名門校のエスカレーターコース。
現在は、大学で国文学を勉強中で私と3歳年下である。
夜9時頃、伯父さんが帰宅。
伯母さんに急かされて玄関へ出迎えにでる。
私は、書生見習いとして来ているのだから。お抱え運転手を
見送ってから伯父さんと対面。
これまでの父とのやり取りを話してもらう。
伯父さんは、私が尊敬する男性のタイプだ。
戦前、裕仁陛下(昭和天皇)から学生時代「恩賜の金時計」を
頂いたらしく
若い頃はよく勉学に励んだらしい。
戦争中も金時計を肌身離さず大事にしていたそうで兵役では首に
ぶら下げていたので上官から殴られなかったと言う逸話もある!
聞くところによると学徒出陣で兵隊に駆り出され、上官から
みんなビンタを受ける羽目になったとき、上官から
「時計をはずせ」と言われた
しかし伯父が「これは陛下からいただいたものであります。
自分の命より大事なものですから外すわけにはまいりません。
他の者が陛下より下賜されたこの時計に触れることは許されません。
恐れ多くも…」と言ったところで上官が「次」と言ってスルー。
時計のおかけで何度も殴られずに済んだらしい。
戦後、国家公務員として内閣府で働き、現在は 宮内庁で
春秋叙勲等における勲章等の授与の栄典に関する仕事を行っている。
その伯父は、東京で結婚したが子供に恵まれず、養女を迎え
今回の仕儀となった。
私の意見も聞かず、相談もなく話だけが進んでいたのである。
この日は、風呂に入って早く休んだが、全く眠れず一夜を明かした。
このまま行けば、私の人生は安泰のようだが、母はどう思っているのか
翌日、公衆電話で母に電話をかけた。
母は、「嫌だったらいつでも帰ってきていいよ」
「お父さんは、あなたのことを考えて一番いい方法だと思っているだけ。
あなたの人生だから自分の好きなように生きなさい」と言ってくれた。
でも1ヶ月だけでも頑張ってみたら…皆さんの良いところやこれから
先の僕の生き方が見えてくるかもしれないとアドバイスを受けたので
とりあえず1ヶ月間東京生活を楽しんでみることにした。
伯父さん宅には、厳しいルールがあった。
朝6:30起床 庭、玄関掃除の後、朝食7:30伯父さんの公用車の出迎えと
見送りそして夕刻の出迎え。
そして自分の部屋掃除が終わると後は晩飯まで自由時間が与えられた。
この家にいる間に将来自分がやりたい目的を探すこと。
見つからなければこれから先の人生は、 伯父の指示に従うこと。
まさに究極の二者択一ライフが始まったのである。
家にいると伯母さんから「大の男が家でブラブラしていてはダメでしょう!」
ダメ出しされる始末。
ブラブラしているつもりはないが、行く当てもなく、私は迷っていた。
一方、彼女は朝食後、大学へ…。私とは違って規則正しい生活を送っており、
きちんと決められた時間に帰宅する。
彼女が帰ってきてから、私たちは2時間程会話を楽しむ。
学校で勉強してることや趣味のたわいもない話であるが、一日の中で一番
楽しい時間だ。
楽しい時間はあっという間に過ぎる。
どういうつもりなのか、彼女はいつも会話の後で小坂明子の「あなた」を
歌ってくれる…
しかし、毎日このまま家でゴロゴロしていては、伯母さんに叱られる。
私は、朝食後毎日東京都内を散策することにした。
東京には魅力的な場所が多くどこへ行こうか迷っていたが、まずは
皇居見学を思いついた。
「皇居」で東京の歴史と自然に触れたいと思い、いざ皇居へ。
皇居前広場と二重橋を眺めることが一般的な皇居観光だ。
ところが実は事前に手続きをすれば手軽に見学できることがわかった。
利用しない手はない。
皇居桔梗門前で受付後に敷地内に入り自由に散策が出来た。
これは当時の話で、現在は、見学係員が付いて団体での見学が
スタートするようになったらしい。
コースは徒歩で約2kmを75分ほどかけて巡る内容で、すべて建物の
外観見学コースでは宮殿や宮内庁庁舎等だけではなく、江戸城の
面影を随所で目にすることができる。
また、天気の日は、広い新宿御苑でのんびり昼寝。
智恵子は東京には空が無いと言ったが、そんなことはなく、
これは実に気持ちがいい。
上野周辺では、1日中美術館、博物館、公園や池の周辺で時間を
費やして夕刻帰宅。
雨の日は映画館で洋画のはしご!「ベンハー」「アラモ」
「風と共に去りぬ」「ドクトルジバゴ」など銀幕に別の世界が現れる。
毎日これの繰り返しだ。
家に帰ると叔母さんから1日何をしていたかを必ず聞かれる。
行動報告である。
計算高いことができなかった私が馬鹿正直に答えると
「Tommy。貴方は将来のことをちゃんと考えていますか?」と
お叱りを受ける。
だんだん居づらくなってきた。叔父さんに東京での将来のことを
相談すると、「2・3か月ぐらい遊んでそのうち自分の道を見つけなさい。
それで見つからない時は、私の手伝いをしてくれ」
「私の手伝い?」それはいったい何なのか。
聞いてみたが「時期が来たら教える」のみでこの会話は終わった!
芽衣さんは、叔父さんに言い含められているのか 私に対して
良くしてくれる。
私にも彼女には不満などあろうはずがないのだが、これからの
人生を考えると答えが出ないままの宙ぶらりんな感情もある。
だから、彼女に対しては申し訳ない気持ちで一杯だった。
そんな私の迷いを知ってか知らずか、芽衣さんは会話の最後には、
決まったように小坂明子の「あなた」を歌ってくれる…
それはともかく、毎日出歩いているので外の生活には慣れてきたが、
はたと気づけば財布の中が軽くなっていた。
カネがない!明日からどうして生活しよう!
私は、自分でも思いもしなかったところへ飛び込んだようだ。
(つづく)
【この物語小説は、実話を基にしたフィクションです】
次号は、「厳しくも儚い東京生活」!
※ご意見や間違い指摘、文章がおかしいところがあれば
ご指導/ご指摘きください。
次回をお楽しみに…!     Tommy